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神村 岡弁護士ブログ

ファウルボール訴訟

2015.03.27 [ 神村 岡 ]

昨日,札幌地裁で,ファイターズの試合を観戦中にファウルボールが当たって右目を失明した女性が起こした訴訟で,女性が怪我をしたことについて球団側の責任を認め,損害賠償を命じる判決が出ました。


まだ判決文を読めていないので詳細はわかりませんが,この裁判の争点は,ファウルボールによる負傷を防ぐための球団側の対策が十分だったか否かという点でしょう。

私もファイターズの試合を観戦したことはありますが,ファールボールが飛ぶと大きなサイレンがなり,「ファウルボールの行方にご注意ください」というアナウンスが流れます。

ファウルボールが飛んだ後以外にも何らかのアナウンスはあったように思いますが,いずれにしても,現状のアナウンスだけでは安全対策は不十分だったと認定されたことになります。

確かに,実際にファウルボールは飛んできますし,中にはライナー性の打球もあります。全ての打球の行方をしっかり見ることは実際には難しいので,ファウルボールが当たる危険性を完全に排除しようとすれば,防護ネットなどが必要になると思います。

他方で,観客はファウルボールの危険性を認識しながら観戦しているはずですから,ある程度観客の側で自己防衛をすべきという考え方もあり得ると思います。
つまり,危険な状況を認識しつつ自らその状況に身を置いた以上は,本人にもその危険から身を守る責任があるのではないかということです。
このような理屈を「危険の引受け」といいます。

もし,ファウルボールが飛んで来ないようにしなければ球団側が責任を免れないとすると,結局は広い範囲で防護ネットなどを張らざるをえないことになりますが,個人的には,それはちょっと残念です。

もちろん,今回のような事故が起こらないよう,安全対策については見直される必要があると思いますが,アナウンスを工夫するなど,何とか安全性と臨場感を両立させるような方法がないものでしょうか。

有給消化の義務付け

2015.03.21 [ 神村 岡 ]

これまで,有給休暇は労働者が申請して初めて認められるものでした。

そのため,有給を取得する権利はあるものの,何となく行使しづらいという理由で結局使わないまま終わってしまうというのはよくある話だったと思います。

そのような状況を打開することを目的としているのでしょうか,今,労働者に有給休暇を取得させることを企業の義務とすることが検討されています。

具体的には,有給休暇の内5日間程度の日数については,企業の方から積極的に労働者に働きかけて取得させるという制度になりそうです。

違反した場合の罰則も設けられるのでしょう。

これによって,労働者がいろいろな事情で全く有給休暇を取得できないという状況は改善されそうです。

とはいえ,業務量が変わらなければ,他の日の残業が増えるだけということにもなりかねません。

これを機に,業務を効率よく短時間で終わらせるような工夫ができればよいですね。

マタハラ

2015.03.15 [ 神村 岡 ]

マタハラとはマタニティーハラスメントのことで,妊娠・出産を機に嫌がらせをしたり,退職に追い込んだりすることを意味します。

妊娠・出産を機に降格や退職を迫られるというケースは少なくないのではないでしょうか。

男女雇用機会均等法や育児介護休業法は,妊娠・出産を理由として解雇や降格などの不利な取扱をすることを禁止しています。

しかし,実際には妊娠・出産を理由としていても,勤務成績や勤務態度の不良といった他の理由をつけて不利な処分をされてしまうということは多々あると思います。

そのような場合,妊娠・出産を理由とした降格や解雇であることを立証することはなかなか困難です。

しかし,先日,厚労省が全国の労働局宛の通達を出し,妊娠・出産に近接した時期における降格・解雇などの不利益な処分は,妊娠・出産を理由としたものとみなして原則違法と判断するという基準を示しました。

これによって,企業側が勤務成績不良等の名目でマタハラを行うことが抑止されるようになると思います。

労災遺族年金と損害賠償

2015.03.13 [ 神村 岡 ]

労働が原因となって労働者が死亡した場合、その遺族には労災から遺族年金が支払われます。

また、労働環境に問題があった場合など、労働者が死亡したことについて使用者に過失がある場合には、遺族は使用者に対して損害賠償請求をすることができます。

そして、労災から遺族年金の支給があった場合、使用者側はその限度で賠償義務を免れます。

ところで、損害賠償請求をする場合、本来の損害賠償額(元本)に加えて、支払いが遅れたことに対する遅延損害金も請求することができます。労災事故の場合、元本に対して年5%の割合です。

それでは、賠償額から遺族年金の既払い額を差し引く場合、遅延損害金からまず差し引いて、残った分を元本から差し引くのでしょうか。それとも、まず元本から差し引くのでしょうか。いずれの処理をするかによって、遅延損害金の金額が変わってきます。

この点については、従来裁判所の判断も分かれていたのですが、先日、最高裁が従来の判例を変更して,元本から差し引くという判断を示しました。

http://mainichi.jp/select/news/20150305k0000m040048000c.html

その結果、遅延損害金は元本から遺族年金の支給額を差し引いた金額を基準に計算されますので、遺族にとっては不利な結果ということができます。

最高裁の判断の根拠は,死亡による労災保険給付と死亡による逸失利益(死亡した人の収入など,得られるはずだった利益)の損害賠償が、いずれも人の死によって失われた利益を補填するという点で同性質であること,かつ相互に補完する関係にあるという点
にあります。

遺族補償年金は将来にわたって定期的に支給されるものですが,実際に支給された限度で,不法行為のときに損害が填補されたと法的に評価することになります。

従来の判例を変更するもので,実務的には大きなインパクトのある判例です。

美濃加茂市長の無罪判決

2015.03.07 [ 神村 岡 ]

先日,収賄で起訴されていた美濃加茂市長の裁判で,無罪判決が言い渡されました。

日本の刑事裁判では,検察が有罪と判断して起訴すると,ほとんど有罪になります。
起訴される裁判のほとんどは事実関係に争いのない自白事件ですから,その点は割り引いて考える必要はありますが,刑事裁判で犯罪事実を争って無罪判決を勝ち取ることができるのは,かなり稀なケースといえます。

ところで,今回の美濃加茂市長の収賄疑惑に関しては,贈賄の容疑をかけられた人物も起訴され,既に懲役刑が確定しています。

美濃加茂市長が無罪ということは,収賄の事実がなかったということですから,贈賄もなかったということになるはずです。なぜ,同じ事件なのに結論が別れたのでしょうか。

これには,刑事手続のルールが関係しています。

今回,美濃加茂市長の裁判と,贈賄で起訴された人物の裁判とは別の手続で行われたため,審理は別々にされています。

そして,裁判官が判決を出すに当たって判断材料とする証拠は,その裁判で調べられたものに限られます。
2つの裁判では調べられた証拠は異なっていたでしょうから,裁判官が判断材料としたものが違うということになりますし,他方の事件の結論を考慮することも許されません。

また,なにより被告人が認めているのか否認しているのかという点が違います。
贈賄側の裁判では,被告人自身が贈賄の事実を認めていましたから,検察側が一応の証拠を揃えれば裁判官は有罪の結論を出さざるを得ず,無罪判決が出る余地はほぼなかったと考えられます。
それに対して,美濃加茂市長は争っていましたから,供述の信用性等が厳しく審理されることになります。美濃加茂市長の裁判で大きかったのも,贈賄側の人物の供述が信用できないと判断されたことでした。

それにしても,美濃加茂市長の無罪判決が正しいとすると,贈賄側の虚偽の証言のせいで美濃加茂市長は逮捕され,刑事裁判を戦わざるを得なかったことになります。
そうだとすると,その虚偽の証言は贈賄行為よりも罪深いように思います。

今回の判決では,贈賄側の人物が,美濃加茂市長に対する贈賄について重要な証人となることで,自らの他の重大な詐欺事件を有利に運ぼうとしたという疑いがあるという指摘がされています。

虚偽の贈賄の事実を供述する動機がある人物の供述を信用して,それを立証の柱として美濃加茂市長を起訴した検察の判断が正しかったのか,疑問が残ります。

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