2009.10.10 [ 齋藤 健太郎 ]

 江戸川乱歩賞を受賞したプリズン・トリック(遠藤武文著)を読みました。
 店頭で、手に取ってなんとなく購入してしまいました。

 仕事から帰ってから、寝る前に少しずつ読みました。

 感想としては、まあまあってところでしょうか。
 そこまで引き込まれる感じでもなく、トリックもまあ最後に「へー」っていう感じでした。
 本の帯には、「あなたは絶対に鉄壁のトリックを見破れない。そして必ず、二度読む。」とありましたが、二度は読まない感じです。一瞬読みかけて妻にバカにされましたが・・・。

 それよりも、自動車保険や交通事故について妙に詳しく書いてあるなと思ったら、実はこの著者は、損保に勤務している方のようです。
 この本の中にも、損保に勤務している社員が出てきますが、その社員の考えとしての記述には少し嫌な感じを受けました。以下の部分です。

「ま ともな整形外科医ならば、ムチウチを治療の必要な傷病などとは考えない。放っておけば、長くても三ヶ月で治る。三ヶ月を過ぎて治らないのは、脊柱管狭窄症 や椎間板ヘルニアなどの持病を抱えている場合や、過剰な被害者意識による心因性の疾患、示談金の増額を狙っている場合などだ。」

 これは、あくまで一社員の意見という記載がなされていますが、著者が損保に勤務しているということからは著者の意見のようにも感じてしまいます。少なくともこの本で、このような記載をする必要性は一切感じられません。
 ヘルニアなどがなくても、むち打ちで後遺障害を残す方々がいるのは常識的なことで、裁判実務も自賠責実務も当然の前提としています。三ヶ月を過ぎても治らないなどというのはザラです。
 このような社員が損保にいるために、治療の必要性を否定して、治療費の支払い等を一方的に打ち切るという運用がなされるのでしょう。

 その後の部分で、症状固定となっているからいいんだという記載もありますが、症状固定か否かを決めるのは医師であり、医師が治療の必要性を認めているのであれば、それを損保会社が否定する根拠はないのではないでしょうか。

  中には、心因性のものや必要以上に通院を求める人もいるかもしれません。しかし、実際に事故後に症状が出ている人に対して、「適切な賠償」という言葉だけ を根拠に治療を打ち切るのには、相当な覚悟と根拠を持つ必要があるのではないでしょうか。本当に苦しんでいる被害者がいるのですから。

 また以下のような記載もあります。

「最近は、脳脊髄液減少症などという胡散臭い傷病名を耳にするようになった。マスコミが面白がって取り上げるので、一般にも知られるようになり、その治療を受けさせろという者も現実にいる。殆どの整形外科医が否認する症例に対して、保険金の支払いができるわけがない。」

 しかし、胡散臭いという根拠がよくわかりません。また、整形外科医が否認しているかどうかはわかりませんが、中心となっているのは脳外科医と神経内科医であり、専門が異なります。
 たしかに、まだ議論がある分野ではありますが、全く根拠がないかのような記述には眉をひそめざるを得ません。まああくまでこの社員の見解であり、著者の見解ではないと思いますが。

 あと「裁判官の心象」は、「心証」の誤りでしょう。
  また、相手が拳銃を持っていると勘違いして、それに対して拳銃で発砲した点について、「違法性は阻却されない」とありますが、このような件では、違法性阻 却事由の錯誤が問題となるので、違法性阻却の問題ではありません。また、「殺意があったかどうか」が争点だとしますが、拳銃を発砲しているだけで殺意十分 なので争点にはなり得ないでしょう。むしろ、錯誤が最大の争点となります。
 若干、調査と理解が甘い感じがしました。