2014.01.07 [ 齋藤 健太郎 ]

年末に,この本を読みました。
http://www.amazon.co.jp/統合失調症がやってきた-ハウス加賀谷/dp/478160899X

私は,札幌弁護士会の高齢者・障害者支援委員会で,精神保健の分野を担当しています。また,札幌市の精神医療審査会の委員をしていることもあって,大変興味深く読ませて頂きました。

「松本ハウス」というコンビのハウス加賀谷さんが統合失調症となり,どうにか頑張るのですが,結局,漫才の仕事ができなくなって精神科病院に入院をしてしまいます。退院後も,なかなか社会復帰ができない状態を続けながら,その後コンビを再結成するという話です。

ボキャブラ天国という番組に出ていたらしいのですが,正直ほとんど覚えていません。ごめんなさい。

この本の良いところは,まず,加賀谷さんの生い立ちや家族歴というところから始まり,本人の妄想の内容や精神科病院での治療などについて,赤裸々に綴っているところでしょう。閉鎖病棟の保護室については,知らない人はショックを受けるかもしれません。

特に,妄想をどのように捉えているのかについては,患者さん自身の口から客観的に語られるということは少ないように思います。私が精神医療審査会で審査する患者さんは妄想だとは認識していないことも多いため,本人が妄想について語るというのは新鮮でした(加賀谷さんも当然,当時は妄想だと思っていません)。

また,相方の松本キックさんの対応がとても良い。通常であれば,偏見から付き合いをやめたり,または早期の復帰を迫ったりすることも考えられたと思うのですが,距離を置いて,半年に1回くらい電話をするという対応をします。変なプレッシャーをかけたくないという思いだったのでしょう。なかなかできることではないと思いました。

この本を読んでいて,驚いたのは,漫才のコンテストかなんかで,審査員のうちの一人が,加賀谷さん達の漫才に対して「障害者を舞台に上げていいのか」という信じられない発言をすることです。精神障がい者への偏見は根強いものがありますが,それを露骨に表現することに恥ずかしさを感じない人々がいることに驚きます。

なかなか考えさせられる良著でした。