2014.03.11 [ 齋藤 健太郎 ]

 最近,主婦が誤認逮捕されたというニュースがありました。

 その件は,パチンコ店で女性客が、他の客の財布を置き引きしたとして逮捕された事件でした。
 その後,財布が店内から発見されたため,見つかった場所を撮影した別の防犯カメラの映像を調べたところ、別人が財布を捨てる姿が映っていたというのです。女性は,8日間勾留された後にようやく釈放されたのでした。


 警察が女性を逮捕したのは,防犯カメラの映像に,財布を盗られた男性が座っていた席に女性が座り、財布があった方向に手を伸ばすような様子が映っていたという理由からでした。しかし,この事件では,女性は一貫して容疑を否認していたのですから,別の防犯カメラも当然に調べるべきだったでしょう。警察も,「別のカメラの映像は確認しておらず、捜査が尽くされていなかった」として,女性に対して謝罪せざるを得ませんでした。

 

 さて,8日間の身柄拘束がなされたことに対して,どのような補償がなされるのでしょうか。

 まず,刑事補償法という法律がありますが,この法律では,最終的に無罪判決まで取らなければ補償を受けることができません。おかしな話ですが,憲法でも,「無罪の判決を受けたときは」とされているため,刑事裁判になる前に釈放された場合は含まれないのです。
 そこで,起訴前に釈放された場合については,法律ではないのですが「刑事補償規程」というものがあり,それに基づいて補償がなされることがあります。しかし,全ての場合にされるわけではなく,たとえば単に証拠が足りないという理由などで釈放された場合は含まれていませんし,検察官が判断することになっています。今回の事件のようにはっきりと犯人ではないという証拠があった事案はいいのですが,そうではない場合には補償は受けられない可能性が高いでしょう。


 それにしてもこの事件、もしも、財布が店内で見つからず、別の防犯カメラの映像チェックがなされなかったらどうなっていたのでしょうか。

 世界的には異常な数字ですが、日本では、起訴されると99.9%が有罪になります。この事件も、私のような優秀な刑事弁護人が就任しなければ,有罪になっていた可能性も否定できません。本当に恐ろしい話ですが,自分は関係ないと思ってはいけません!この事件の女性がただパチンコをしていただけであるように,誰にでも犯人にされてしまう可能性はあるのです・・・。

 

 実は誤認逮捕の問題として,ニュースやメディアに実名報道されてしまうという点もあります。一旦、実名報道がされてしまうと、今はインターネット上にも記事や記事を引用したものが残ってしまいますので,仮に、あとで誤認逮捕とわかっても、取り返しがつかないことになります。また,地方の人口の少ない地域で暮らしているような場合には,一度の報道によってその人の生活は破壊されてしまいます。

 警察も検察も,今回の事件のような,はっきりとした証拠がなければ,謝罪をすることもありませんし,「犯人ではありませんでした」なんて報道がされることもありません。一度報道された以上,犯人ではないかという疑いの目で見られ続けるリスクを負うことになります。

 そういう意味では,逮捕段階での報道についてはもっと慎重な姿勢が必要なのではないでしょうか。逆に,受け手の方も,誤認逮捕というものが十分にあり得るということを常に頭に入れてニュースを見なければなりませんね。