2014.03.17 [ 齋藤 健太郎 ]

医療事件においては,一般の法律相談とは違って,調査がとても大きなウエイトを占めています。
一般の法律相談の場合には,相談を受けた時点で,知識と経験から一定の答えを出すことができますが,医療事件の場合には,そうはいきません。

とはいえ,色々な医療事件をやっていると,詳しい知識を得ていない段階で,ある程度の見通しを付けることはできるようになりますが,それでも調査をしてみると全く結論が異なってくるということもあります。

では,実際にどのように調査をしているのでしょうか。
私の場合は大抵は以下のような方法で調査をしています。

1 まずは,問題となる疾患について,インターネットで大まかな情報を入れます。今の時代,インターネットを活用しない手はありません。わかりやすく論じているページや画像が豊富なページなども検索によって出てきます。

2 薬剤については,「添付文書」というものが,ネット上で見られるのでそれを確認します。

3 「今日の診療プレミアム Web版」というのに登録しているので,そこで基本的な知識を得ます。
これは有料なのですが,私にとっては欠かせないツールになっています。ウェブ版なので,毎年更新されますので,常に新しい知見を得ることができます。もっとも,生理学などの基本は不足していますし,専門性が高い場合や特に外科系の場合には情報がほとんどありませんので,疾患についての一般的な知識を得るためのものと考えています。

4 文献のうち日本の医学雑誌に掲載されているものについては,「医中誌」という有料の検索サイトがあります。そこから文献を探していくこともあります。概要などはそのサイト内で見られるのですが,中身を読みたいときは購入するしかないので,それなりに費用がかかってしまうのが難点です。
 アメリカの文献を探す場合には,PubMedというものがあるので,それで検索することになります。これは完全に無料なので助かります。日本にもCinii(サイニィ)というサイトがあり,日本の雑誌をかなり検索できるのですが,やはり医中誌にはかないません。

5 それ以外にも,ハリソン内科学という書籍,解剖学の本,生理学の本などを引っ張り出しながら調査をしていきます。北大医学部の図書館や札医大の図書館も重宝します。

6 何より大切なのは,医療記録を仮説を立てながら繰り返し読み込むことでしょう。カルテが読めないほどの場合には,コムルという組織や医療事故情報センターというところに医療翻訳の依頼をします。
 カルテを読んでいるうちに,仮説を裏付ける事実が出てくることがあります。宝探しのような感覚でそれなりに興奮します。できるだけ視野を広くもって,最初から特定せずにあらゆる可能性を考えていくことが大切だと思います。たとえば診断した医者の考えを追いかけるだけでは真実は明らかになりません。見落としの事案などであれば,その医師は見落としているのですから,思考を辿っても誤った方向に行くだけです。客観的な検査結果などを軸に事実を組み立てていくという作業が不可欠となります。

7 それらの調査を踏まえて,専門家の医師に相談しに行きます。場合によっては,一般的な相談をよく知っている医師に最初に相談することもあります。そこで大体のあたりをつけて,さらに専門家の先生に話を聞くこともあります。医師に話を聞く前にある程度の調査をしていないと,疑問を持つことすらできず,十分な調査はできません。
 医師は,元から知り合いの医師に聞くこともありますが,専門性の高い場合には,医療事故情報センターというところから紹介を受けたり,文献の著者に直接連絡をして会いにいくこともあります。また,他の医師から紹介をして頂くということもあります。本当に,そのような協力医の先生なしには私の仕事は全く成りたちません。

以上,長くなりましたが,こんな感じで調査をしています。