2014.03.23 [ 齋藤 健太郎 ]

あなたの家族が突然,予想もしない理由で病院で亡くなったとします。
原因はよくわかりませんが,医師からは死ぬ可能性があるなんてことは言われていませんでした。

そこで,医師に説明を求めます。
どうして死んでしまったのですか?
医師からは,「予想外のことが起きました」ということに加えて,その理由についての説明がなされるでしょう。
理由は様々でしょうが,「原因はわかりません」などと言われることもあれば,「実は我々のミスです」などと言われることもあるでしょう。

では,医師からの説明で納得ができるでしょうか。とても信頼できる先生に十分な説明を受ければ納得することもあるでしょう。しかし,あまりに予想外の死に対して簡単に納得ができないこともあります。

そこで医師からは解剖を進められることもあります。場合によっては,事件の可能性があるということで,警察が関与し,「司法解剖」というものが行われることもあります。司法解剖の場合には全身について解剖が行われますが,病理解剖の場合には関係がないとされる部分は行われません。
そもそも,大切な家族の身体を切り刻まれるのは大変辛いことです。そのような理由で解剖を断念される家族も多く,その結果,解剖がなされないままの事案もあります。

解剖をすることでかなりの事実は明らかになります。しかし,仮に解剖をしたとしても,解剖は医学的な観点を中心として死因を探るものですので,それだけでは何が起きたのかということを全て明らかにすることはできません。

そこで大切なのが医療記録などから「事実」を立体的に組み立てていくことになります。
当然,医療記録が真実を記載しているものとは限りません。場合によっては,医療機関による改ざんがなされていることもあるでしょうし,誤った記載もあることでしょう。
しかし,その作業を積み重ねていくことでしか真実には近づけません。
そして,医療記録のみではなく,証人である医師・看護師からの証言を得ることも大切なことです。

ここまでの過程で,原因究明にはいくつもの壁があるということにお気づきでしょうか。
1 医師からの説明が十分ではない場合がある。
2 病理解剖だけでは十分ではない場合がある。
3 解剖が行われない場合がある。
4 解剖だけでは事実が明らかにならない場合がある。
5 医療記録が必ずしも正しいとは限らない。
6 証人からの証言を得られないと正確な判断ができない。

現在,医療事故の原因についての第三者機関の設置が進められているようです。
しかし,医療事件を経験してきた立場からは,本当に第三者機関が公平で納得のいく結論を出せるのか疑問があります。
裁判がマイナスであるというイメージを強く持っている方も多いのかもしれませんが,事実を確認していく作業というのは第三者的な機関が調査を行えば簡単にできるというものではありません。裁判手続にも事実を確定する作業として一定の価値を見い出すべきではないでしょうか。
時間がかかるという大きな問題はありますが,私が今まで担当してきた事件については,訴訟を提起したことを後悔している方はいないと思います。

そもそも原因を明らかにするという作業は,責任の所在を明らかにするということでもあります。
そこをぼやかして,なんとなく遺族を納得させるというような制度にならないように強く望みます。