2014.04.08 [ 齋藤 健太郎 ]

遺言には,公正証書遺言と自筆証書遺言の二種類があるのをご存じでしょうか。ちなみに,法律家は,「遺言」のことをなぜだかわかりませんが「イゴン」と読みます。


自筆証書遺言は,全文を自分で書いて,日付と名前を書いて,印鑑を押せばできあがりです。

 

              遺言書

       私は全ての財産を妻に相続させます。

 

                     平成26年4月7日

 

                         齋藤健太郎 印

 

はい,これで完成ですね。私には妻は一人しかいませんので,「どの妻だ!」ということで特に争いにはならないでしょう。ただし,全ての文章と名前,日付を自分で書かなくてはいけません。

 

一方で,公証役場で作成する公正証書遺言は,偽造,変造することはほぼ不可能ですし,だれかが発見した後で隠すということもできません。公証役場には,遺言の検索システムがあり,相続人であることを戸籍で証明すれば,亡くなった方の遺言があるかどうかを調べることができます。

 

公正証書遺言を作成すると,「正本」というものを交付してもらえますが,「原本」は,公証役場に保存されます。このため,正本を紛失してしまったとしても,再度,発行してもらうことができます。

 

ところが,東日本大震災では,公証役場にも津波が到達したそうです。原本が津波に流されてしまったら大変です。そこで,この教訓から,全国の公証役場で,公正証書遺言のデジタル保存を開始したというニュースを目にしました。デジタル化の波はとうとう遺言にまでたどり着いたということでしょうか。

 

私の個人的な考えでは,本人が記載したということが証明できるような形であれば,そもそもデジタルでの遺言も認めるべきではないかと思います。当然,厳格な証明方法が必要ですが,自筆証書遺言という制度自体が,完全ではなく,争いを引き起こすこともあります。そうであればかえって改ざんされにくく,自分が書いたことを証明しやすいのではないかとすら思うのです。

 

本人確認の方法としては,免許証,印鑑証明などもありますが,もっともわかりやすいのはビデオ撮影でしょう。デジタル遺言に加えて,同じ内容のことをビデオで撮影して動画でアップしておけば,本人の意思通りということを証明する手段となるでしょう。さらに,高齢の場合には,認知症がないことを証明するために,長谷川式の認知症テストをやるということも考えられますね。

 

でも,公正証書を作成することもそんなに大変ではありません。

弁護士に依頼する場合には,まず,依頼者の財産の内容を確認し,どのような遺言がよいかを依頼者と打ち合わせます。

遺言書の案を作り,公証人さんとも事前に摺り合わせた上で,当日作成に行きます。このため,当日は短時間で済むようになっていますし,簡単な遺言であれば,一度の面談で完成してしまうでしょう。

 実は,遺言を作ろうと思い立って行動に移すまでが最も大変なのかもしれませんね。