2014.05.05 [ 齋藤 健太郎 ]

先日,以下のようなニュースを目にしました。

________

日本医療機能評価機構によると、平成25年に医療機関から報告があった医療事故は前年比167件増の3049件で、年単位の集計を始めた17年以降で初めて3千件を超え、最多を更新した。

 全体のうち、医療法に基づき報告が義務付けられている大学病院や国立病院機構の病院などから2708件の事例が寄せられた。うち216件(8%)で患者が死亡し、障害が残る可能性が高いケースは263件(9・7%)だった。いずれも事故との因果関係は不明という。

________

この事例は,あくまで医療機関が事故だと考えたうえで,日本医療機能評価機構というところに報告された事例です。平成25年の1年間で3049件ということになると,1日8.3件以上事故が起きているということになりますが,あくまで報告義務がある一部の病院から,報告された事例がほとんどのようですから,実際にはもっと多いということになるでしょう。

このニュースをみて,「医療事故が増えているから,医者が地方から撤退しているんだ」とか「産婦人科医が減っているんだ」というように反応する人もいるかもしれませんが,大きな誤りです。

これはあくまで病院が報告したものを意味しているので,紛争になっているか否かは問題にしていません。そもそも,地方からの撤退は,医局制度というものの崩壊によるところが大きく,産婦人科医の問題も訴訟リスクが生じやすいという本質的問題はあるもののそれが原因とは言い難いです。なぜなら統計上,医療裁判の数は明らかに減っているからです。

毎日多数の医療事故が生じていることは事実なのです。そして,その中には医師のミスによって生じたものもあるでしょうし,それによって死亡したり,後遺症を残した事例も多数あります。

問題は,患者さんが医療事故だと気がつくという第一の壁を乗り越えなければならないとういことです。医師の説明によって,何の問題もないと言われてそれを信じれば,事故は事故ではなくなってしまいます。専門家に言われるとそうなのかな・・・と思ってしまうものです。まず疑問を持ったら相談をすることが大切です。

次に,事故だと思っても問題にしなければ医療事故としては扱われません。医者の説明に納得した,誠意を感じたという理由なら良いのですが,中には「医療事故は勝てない」という一般論のみから諦める方も多数いるように感じます。その結果,解剖もせず,後から後悔をするということにもなります。

医療事故の勝訴率は確かに一般の事件よりは高くありません。

しかし,多くの医療事故は,裁判の前に解決するか,裁判中に和解によって終わっているのが現状であり,判決までいくことは少ないのです。判決まで行く場合だけを見れば勝てないと感じてしまうかもしれませんが,それは錯覚です。

医療事故が増加しているわけではありません。あくまでちゃんと報告される事例が増えたということだと思います。そして,次に大切なのは,その事件を他の病院にも周知したうえで,適切な賠償を受けるべき人が受けるということです。ただ報告される医療事故が増えても,次を防げなければ意味がありませんし,補償を抜きに考えることは許されません。