2014.05.13 [ 齋藤 健太郎 ]

 皆さんもご存じのように,漫画『美味しんぼ』において,福島にいると鼻血が頻繁に出るという描写をしたことが問題になっています。
 いろいろな考え方があるので,どの考えがおかしいというつもりはありませんが,なぜここまで一人の人間の作品を叩かなければならないのか疑問を感じています。

 私は,仮にそれが実は放射性物質の影響とは無関係だったとしても,自らの体験に基づいてそのような事象があると訴える人達がいて,作者がそれを漫画に表現することについては,これも一つの表現として許容されても良いと考えています。それを題材に議論をすることは素晴らしいことですが,大臣が不快感を示す意味がよくわかりません。個人的な不快感であれば言わずとも良いですし,国家として一作品に不快感を示すのであれば言論弾圧です。

 私は,最初この話を聞いたときに,作者は被爆のことについて無知なのではないか,何も知らずに書いたのではないかと考えました。でも,よく考えれば,本当に科学は被爆について全てを解き明かしているのでしょうか。低線量だから安全というのも長期間の実験がなされたわけでもないでしょうし,後から影響が出るかもしれません。科学的に正しいと思われていたことが長期間経った後に根拠のないものであったことが判明したりすることも十分にあるのです。多くの御用学者が原発は絶対に安全と言っていたことを忘れてはならないでしょう。実は鼻血にも根拠があるかもしれませんし,「そんなことはあり得ない」という人の方が私は信用できません。我々は,常に目の前にある事実に対して謙虚にならねばならないと思います。

 ついでに言えば「風評被害」という言葉ももう止めた方が良いと思います。放射線による影響というものは完全に解明されているわけではなく,果たして被害があるかないかがわからないから怖いのです。自分の子供達に何かあったらどうしようと思うから怖いのです。「風評」に過ぎないのかどうかなんて誰にもわかりません。

 問題は,原子力発電所というコントロール不能な危険物を設置したツケを福島の人達だけが背負っているということであり,それを何もなかったかのように元に戻すことはかえって問題を隠していくことになるのではないでしょうか。

 今日は,泊原発廃炉訴訟の期日があります。私は訴え提起のときから,弁護団の一人として活動をしてきました。電気のために,便利さのために,経済のために,あのような悲惨な事故を再び起こしても構わないという考えは私には理解できません。