2014.06.24 [ 齋藤 健太郎 ]

予期しない死亡事故が発生した際に,院内での医療事故調査を義務づける法律が,6月18日成立しました。来年の10月から施行されます。

法律の名前は,「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」・・・長いですね。
略称は「医療介護総合確保推進法」ですが,略称になっているのか大いに疑問です。

さて,このような制度が発足した背景には,「医療の萎縮を防ぐ」ということがあると言われます。
特に,刑事事件として立件することになると,医療が萎縮してしまうという問題が指摘されており,私もむやみやたらに刑事事件とすることには反対です。
しかし,私の感覚では,例外的な悪質な事件は別として,検察は簡単に医療事故を刑事事件として立件しているとは思えません。家族が告訴したとしても,基本的には起訴せずに対応しているという印象です。一部のやり過ぎてしまった事件(大野病院事件など)が妙にクローズアップされていますが,現在ではむしろ医療崩壊や医療の萎縮などというものをおそれて,医療を大切にしようという風潮の方が強い様に感じています。

また,すでに一度ブログでも書いたように,医療訴訟は実際には減っています。2004年には年間1100件の訴え提起があったようですが,2012年には793件に減っているのです。

このような状況において,原因究明を医療機関の義務とすることにはいったいどのような意味があるのでしょうか。原則として外部の医師が入るようですが,互いに守り合う風土のために,厳しい検討ができないおそれが相当あります。また,当然のことながら,医療機関は自らの責任を追及されないように様々な方策を試みる可能性があります。
患者側が最も恐れるのは,病院側の証拠の書き換えや隠匿です。
それを防ぐための実効的な制度がないまま,院内調査を義務化することは,病院側に調査という口実と時間的猶予を与えることになりかねません。医療機関の善意に委ねるような制度で,果たして患者や遺族は納得するでしょうか。

また,この制度には,適切な賠償という観点が欠落しています。たしかに再発防止は重要な観点ですが,現実に被害を受けた方を目の前にして,「今後はないようにします」というだけでは足りないのではないでしょうか。
被害に対する賠償を受けることを実現するためには,「法的責任があること」を病院側が認めなければいけませんが,病院側が自ら謝罪をすることも,また,法的責任を認めるということも,極めて難しいことといえます。結局のところ,院内調査をしても,第三者機関の調査をしても納得できなければ裁判に成らざるを得ません。裁判の前にほどよいところで納得させて諦めさせるという制度ではないのであれば,賠償責任の履行も視野にいれて検討しなければならないのではないでしょうか。

さらに,制度としては院内調査に納得がいかなければ第三者機関に調査を求めることができるようになっているようですが,その調査についても,①事実認定が十分になされることが担保できるか,②公平性・中立性の担保が可能か,③調査結果が法的責任の追及の妨げにならないかなどの疑問があります。

正直,運用が始まってみないとなんともいえないところもありますが,問題点があるということはここで指摘しておきたいと思います。