2014.07.06 [ 齋藤 健太郎 ]

Aさんは,医療事故で大きな被害を受けました。
その後,齋藤健太郎弁護士に相談したところ,「医師に責任がある可能性があります。調査してみてはどうでしょうか」といわれました。そこで,弁護士に依頼し,まずは,証拠保全手続によって,記録を入手しました。

その記録をもとに,齋藤健太郎弁護士は,いろいろな医者に話を聞いたところ,「これは医師に責任がありますね」「通常はこのような治療はしません」「後遺症は残らなかった可能性が高いといえます」などという回答を得ました。慎重な検討を繰り返した結果,医療機関に対して責任を追及する内容証明を作成し,送付することにしました。

しかし,それに対して医療機関は,自分達の責任がないとの回答をしてきました。
Aさんは,大きなショックを受けました。
Aさんが何より欲しかったのは,後遺症の原因が自分ではなく,医療行為にあること,そして医師に責任があることを医療機関が認めて謝罪をしてくれることでした。当然,補償という意味でのお金も必要ですが,前を向いて生きていくためにも,何が起きたのかを知りたいという気持ちがとても強くありました。
ところが,医療機関は,いとも簡単に責任がないとの回答をしてきたのです。その回答には,十分な説明はなく,訴えるなら訴えればいいとでもいわんばかりの内容でした。

そこで,Aさんは悩みながらも訴えを起こしました。
齋藤健太郎弁護士は,相手の医師の詭弁を追及し,たくさんの文献を出し,こちらの見解を示す医師の意見書を提出しました。
証人尋問でも,相手の医師を追い込んで,こちらの専門家の証言もしっかり裁判の場に出すことができました。

裁判の流れからは,Aさんの言っていることが正しいということが裁判官にも理解してもらえている感触がありました。

そこで,裁判所から和解による解決が打診されました。
Aさんは,すでに事故から2年が経過していることから,少し疲れていました。
また,裁判所の和解案が医療機関の責任を一定程度認めるものであれば,応じても良いのではないかという気持ちもありましたので,和解の話を進めることにしました。

裁判所からは,6000万円の和解案が出されました。
Aさんの失ったものを取り戻すには少なすぎましたが,Aさんとしては前向きな気持ちになれるのではないかと思えました。
しかし,Aさんとしては,一番欲しかった責任を認めて謝罪をしてもらうということが和解案にはありませんでした。そこで,齋藤健太郎弁護士にお願いして提案をしましたが,医療機関はそれには応じないといいます。
しかも,医療機関からは,本件に関することについて,「第三者に口外しない」という条項を入れない限り,和解しないといわれました。

Aさんは思いました。
これからも同じような人を出さないために,医療機関としてはこのことを公表すべきではないのか?
なぜこのようなことを起こしてしまったのかを検討し,再発を防止するためにも,公表して,他の医師などの意見を広く聞くべきではないのか?
でも,医療機関の考えることもわからないではありません。事故を起こした病院には誰も行きたくありませんし,それによって病院の評判が落ちてしまえば,やはりダメージになるということもわかります。

そこで,Aさんとしてはやむなく口外禁止条項を入れた和解をすることにしました。

さて,このAさんの事件はフィクションではありますが,医療事件における典型的な解決の流れといえます。
しかし,あくまでこの解決は妥協の産物でしかありません。
Aさんの願いや想いというものが本当に実現できたのでしょうか?
口外禁止条項を入れることが本当に正しいのでしょうか?

私としては,より良い医療というものに少しでも繋がることを考えて医療事件をやっているところがありますが,口外禁止条項が入ってしまうとそのことが公表されず,なかったことになってしまいます。
黙っててくれれば金を払うというやり方にはどうしても疑問を感じてしまいます。
無理は承知でいいますが,むしろ積極的に公表していくぐらいの対応をしてもらいたいと思います。