2015.04.20 [ 齋藤 健太郎 ]

最近目にしたニュースで,以下のようなものがありました。

ある交通事故の判決の話です。

簡単に言うと,運転手が居眠りをしたために,センターラインを超えて対向車に衝突した事件で,そのセンターラインを超えた車の助手席に乗っていた被害者が,「対向車の」運転手に対して訴えを起こしたというものです。
つまり,センターラインを超えてきて衝突した対向車の方にも落ち度があったから損害を賠償しろという,結構すごい事件です。

地方裁判所の判決は,要旨以下のように述べて,訴えを認めました。
1 いつセンターラインを超えたのか,かなり手前から超えたのか直前なのかはわからない。
2 そうであれば,早い時期に発見していれば,クラクションを鳴らすなどして,回避できたかもしれない。
3 したがって,過失がなかったとの証明はないので,責任を負う。

この事件において重要なのは,自賠法という法律があり,自動車事故で怪我をした事件の場合には,加害者の過失の立証責任を転換しているということです。
「立証責任」を「転換」などというと難しいですが,本来であれば,お金を請求する方が,相手に過失があったことを証明しなければならないところ,請求される方の加害者が,「過失がない」ことを証明しなければならないということです。
自動車を運転して,人を傷つけた場合には,一旦加害者とされると簡単には責任を逃れられないという規定であり,交通事故の被害者を救済するということに重点を置いています。

この事件の裁判官は,この構造に引っ張られ過ぎたという感じがします。
「過失がない」ということを証明するのは,厳密さを求めるととても大変なことです。様々な可能性があるのですから,それを全て議論していれば,落ち度がなかったとまではいえないということも言えてしまいます。
しかし,裁判というのは納得の手続です。一つのスジが通ったストーリーというものが支配する世界です。
そのような世界で,あらゆる可能性を模索するのはあまり適切とは思えません。
この事件のわかりやすいストーリーは,ただ普通に運転していたところ,対向車線から居眠りによってセンターラインを超えてきた車が現れて,逃げ切れずに衝突したというものです。一般論としても,クラクションを鳴らしたとしても,居眠りから目覚めて直ちに回避できたとは思えません。互いにそんな余裕はないのが通常です。

たしかに,助手席に乗っていた方は,純粋な被害者といえるでしょう。全く落ち度がないといってもい良いと思います。
しかし,その責任を同時に明らかに被害者である人に負わせることについてはどうでしょうか。
詳細はわかりませんが,居眠りをした運転者には任意保険が適用されない事情があったために,相手に請求したのでしょうか。でも,仮に任意保険に入っていることから,保険会社が支払うだけとはいっても,あまりに被害者救済に傾き過ぎな気がします。

ちなみに,我が家では,夫婦問題の責任の立証責任は夫が負っています。
夫に落ち度がないことを証明しない限り,妻が正しいということになります。
落ち度がないということを証明するのは極めて困難です。その結果,私は常に責任を負うことになります。
問題を生じさせないことが一番です。