2015.08.25 [ 齋藤 健太郎 ]

おもしろ事件といっていいのかどうかわかりませんが,参考になる?判決をたまたま発見したのでご紹介します。

Yさんは,飲食店で,餃子と半チャーハン(合計400円)を注文しました。出てきたチャーハンを食べたところ,小さな白い異物(縦4~5mm,横約12mm,厚み約2mm)が混入していたため,食事を中止しました。

そこで,Yさんは経営しているXという会社に10万円の慰謝料を求めて訴えを起こしました。
なぜか話し合いでは解決しなかったようです。

一審では,社会通念上受忍の限度を超える精神的被害があったものと認めることはできないとして請求が棄却されました。
しかし,二審では,料理を口に入れて咀嚼中に異物を噛んだりした時の不快感による精神的な苦痛は、その額はともかく、損害賠償に値するというべきであるとして、慰謝料の額を2000円としました。

もう少し判決を詳しく見てみると・・・。
店側は,その白い異物は店のものではないなどと主張していますが,直後には謝罪をしたうえで,お金は要らないと言ったようです。その後,執行役員と店長がさらに自宅まで行ったようです。
10万円という請求が高過ぎるために,会社としては支払うという選択を取ることができなかったのでしょう。

そしてクライマックスです。ここからが裁判官の腕の見せ所になります。
沢山引用しましょう。
「本件チャーハンを食べていて口の中で異物を感じ,これをはき出したところ,本件異物であったというのであるから,本件異物を口の中に入れて食べていたが,飲み込むことはなかったというだけである。本件の事実関係の下では,被控訴人から出されたチャーハンを食べ始める前に見て,その中に異物が見えたので食べずに抗議したということではない。本件異物は,一旦は控訴人の口の中に入って咀嚼されようとしていたのであるから,場合によっては飲み込まれてしまい,体内の消化器官を傷つける可能性もないわけではなかったのである。
 しかも,実際には異物を飲み込まなかったとしても,口の中で食べ物を咀嚼中に突然,ガリっと異物を噛んだり,口の内壁に当たったときの不快な思いは,控訴人ではなくても容易に推認することができる。本件では,控訴人は,チャーハンとともに餃子を注文していたところ,甲1号証の写真によれば,餃子の皿には餃子が3個残ったままになっていることが認められるから,控訴人は,食事の途中で本件異物を噛んでしまったことによる不快感によって残りの餃子を食べる意欲を喪失してしまったものと推認することができる。そして,これによる不快感は一日中続いたというのである。
 そうすると,控訴人は,食事中に口にした本件チャーハンに本件異物が混入していたことにより,著しい不快感に襲われ,楽しく食事をする機会を奪われたことは明らかであって,精神的な苦痛を被ったということができる。」

ポイントは
1 突然,ガリッと異物を噛んだり,口の内壁に当たったときの不快な思いに理解を示していること
2 餃子を3個残したままにしたことから不快感によって食べる意欲がなくなったと認定していること
3 楽しく食事をする機会をとっても大切にしていること
でしょう。

そうですね。楽しく食べようとしていたのに,「ガリっ」と噛んだらさぞかし不快ですよね。
餃子もせっかく食べようと思ったのに残しちゃいますよね。
だから2000円分精神的に傷つきますよね。

でも,そんなもんで慰謝料生じるなら,もっと不快なこと沢山ありませんか?
やはりこの裁判官は楽しい食事というものの人生における価値を高く評価したのでしょう。
お疲れ様です。