2015.09.01 [ 齋藤 健太郎 ]

60億の価値のある不動産を持っているケンタロウが,3人いる子供のうちのAに全ての財産を渡すという遺言を書いたとします。

その場合には基本的には不動産はAのものになりますが,遺留分というものがあるので,他の子供B,Cは6分の1ずつをAに請求する権利を有します。
仮にケンタロウが30億の債務をサイトウ銀行に負っている場合には,それを差し引いて,遺留分というものを計算することになりますので,B,Cは30億の6分の1である5億についてAに請求する権利を有することになります。

しかし,ここで気をつけなければなりません。
お金をケンタロウに貸していたサイトウ銀行としては,遺言にかかわらず,いわゆる「法定相続分」というものに従って,A,B,Cに3分の1ずつ支払を請求する権利を持っていますので,1人につき10億を請求することができます。
それに対して,B,Cが,「いやいや,おれたちはそんなにもらっていないんだから払う義務ない」といっても債権者であるサイトウ銀行は知ったこっちゃありません。

B,Cとしては,一度サイトウ銀行に支払ったうえで,そこから払いすぎの部分をAに請求するということになるでしょう。
もし,債務を全く負いたくないのであれば,相続が開始したことを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述というのをしておく必要があります。

まあ,そうはいっても,借金が不動産購入のローンで,不動産の賃貸収入から少しずつ返済していくような場合には,実際にはAが約束通りに支払っている限りは問題は顕在化しません。また,いざとなれば売って支払うということもあるので,この件の場合にはそんなに心配はいらないでしょう。

意外に,債務も相続されるということや,債権者との関係ではもらっていないという主張ができないことは理解されていないかもしれません。
お気をつけ下さい。

※ ケンタロウは実在しない人物であり,当職ではありません。当職は60億円の不動産など持っているはずがありません。
本当のケンタロウは子供も2人であり,3人目を育てる体力も財力もありません。