2016.06.20 [ 齋藤 健太郎 ]

数日前に,みずほ証券が,認知症の高齢者にリスクの高い投資商品を購入させたのは違法だとして,3038万円の損害賠償請求が認められるという判決がありました。

認知症高齢者と消費者被害というのは切っても切れない関係にあります。
一般的な勧誘行為というのは,不安や恐怖を煽ったり,メリットを過度に強調したり,ときには十分な説明をしなかったりすることもありますが,認知症高齢者にはそれに抗って適切な判断をすることは期待できません。

一方で,認知症であるというだけで,日常生活が送れないかというとそうでもないことに注意が必要です。人間は,これまでやってきたことというのは,意外と問題なくできるものです。新しいこと,イレギュラーなこと,少しでも複雑なことになると一気に問題が顕在化しますが,それ以外では問題ないように振る舞うということもできるからです。
突然,思い出しましたが,たしか「ナオミとカナコ」とかいう恐ろしいドラマで(妻がDV夫を友人と一緒に絞め殺してました。やめてください),銀行員が認知症高齢者を欺すというシーンがありましたが,その高齢者は,一人暮らしなのに,家の中は完全に片付いていて,化粧もばっちり,服装も身ぎれいな状態でした。いくら日常生活は問題なく送れるといっても,さすがにこれは現実感ないなあと思ったのを思い出します。

何が言いたいかというと,ある程度疑いの目を持ってみれば,高齢者に認知症が進行しているかどうかは,ある程度判断が可能であるということです。
一番,気がつかないのは身近な家族ですが,銀行員や証券会社の社員などは,様々な方策によって,認知状態が低下していることについて確認し得るはずです。

この判決では,損害賠償請求を認めましたが,実際には,認知症だとは思わなかったという反論や普通に対応していたなどという反論が考えられるため,証券会社側は十分に戦えるという判断になり得ます。
しかし,高リスク商品の売却を高齢者に勧めること自体が危険を孕んでいるのですから,たとえば,一定の年齢以上の場合には,長谷川式という認知症を簡易に診断できる検査を受けてもらうなど,認知症の有無をスクリーニングすることまで求めても良いのではないでしょうか。
投資は自己責任というのは当然ですが,高リスク商品については,高齢者が犠牲にならぬよう,より実効的な規制が必要ではないかと考えます。