2014.02.11 [ 齋藤 健太郎 ]

1年以上前に,痛ましいニュースを耳にしました。
友人の子を誤って自宅の風呂の熱湯に落としてしまい,その結果死なせてしまったというものです。
そのまま忘れていましたが,つい先日,その事件の被疑者が逮捕されたというニュースが流れました。

事件は,2012年12月だったので,1年以上経過してから逮捕されたということになります。
しかも,その被疑罪名は,「傷害致死罪」というものでした。

傷害致死と聞くと,大抵は,人を傷つけようとしたところ死なせてしまったというものを想像しますよね。
この事件の場合,ニュースによれば,その子が「風呂の湯沸かしの火を止め忘れたため,脅かそうと浴槽の上で抱きかかえた際,誤って落としてしまった」という被疑事実のようです。
そうであれば,うっかり落としてしまったのですから,子供を傷つけるつもりなんて全くなかったことになります。
「傷害致死」というのはおかしくないでしょうか???

実は,我々の業界では,傷つけるつもりがなくても,「暴行」(殴る,突き飛ばすなど)をした場合に,結果死なせてしまった場合には,「傷害致死罪」になるとされています。
つまり,暴行→傷害→死亡という流れで進んだ場合には,最初の暴行だけやる気であれば,傷つけるつもりはなくて良いということになります。ちなみに,刑法にはそんなこと全然書いていません。
ニュースでは,検察は「危険な状態の浴槽の上で抱きかかえた行為自体が暴行にあたると判断」したとされています。

しかし,私はこの事件にはいくつかの疑問を感じます。
まず,そもそも浴槽の上で抱きかかえた行為について,暴行をするつもりだったのかという疑問があります。
ニュースでは,「脅かそうと」したという話になっていますが,本当にそのような話だったのでしょうか。詳しい供述はわかりませんが,抱きかかえるという行為は,殴るという行為や突き飛ばすというものと同一に論じられないのではないでしょうか。
この事件は,うっかり落としてしまったという不幸な事件であって,重過失致死罪という罪がありますので,そちらの方が実体には合うのではないかという気がします。

また,そもそも1年も経過してから,あえて逮捕をする必要があったのでしょうか。
会社員という職もあり,逃げようと思えば逃げられる状況で1年も経っています。その間,警察はほとんど全ての捜査を行うことができたはずです。在宅起訴という形で捜査をすることも十分可能だったのではないでしょうか。

人間にはうっかりがつきものです。
それが許されて良いということでは全くありませんが,故意にやろうとした場合と一緒に扱うのは慎重にすべきだと考えます。