2015.02.15 [ 齋藤 健太郎 ]

ブライアン・ウィリアムズさんという,アメリカの有名なジャーナリストがいます。
私も良く知りませんが,NBCというテレビ局のニュースキャスター(アメリカでは,アンカーなんていいますね)で,ジャーナリストとして評価の高かった人のようです。
その人が,これまでイラク戦争で,ジャーナリストとして軍に同行した際に乗っていたヘリコプターが落ちたと言っていたのに,実際には落ちていなかったという問題が発覚したとのこと。落ちたのは,自分が乗る前に飛び立っていたヘリコプターだったようです。
それに対して,この方は,「記憶違いだった」と釈明したようですが,当然誰もなるほどとは思ってくれません。このような衝撃的なイベントについて,記憶違いなんて普通はないでしょう。

たしかに人間の記憶はとても怪しいものだというのは弁護士をしていると常日頃感じることです。
故意ではなくとも,記憶が書き換えられることは常に起きていると言って良いと思います。
人によって差はあるとは思いますが,都合の良いように自分の記憶を変えてしまうとか,イメージに引きずられてしまうということはよくあります。

では,彼はなぜこんなことを繰り返し言ってしまったのでしょうか・・・。
実は一番事実が歪められるのは,そこにわかりやすいストーリーがある場合です。そのストーリーに合うように記憶も作られていき,事実は組み立てられる。
このキャスターの場合には,「戦場で危険も顧みずに真実を追いかけたジャーナリスト」というとても大切なストーリーがあったのでしょう。そしてそのストーリーが彼そのものとなり,彼の人生を支えてきた。テレビもそれを必要とし,視聴者もそれを期待した。彼は「記憶違いだった」というほかなかったのでしょう。
真実を追いかけるはずのジャーナリストが自ら体験した事実を歪めてしまうという何とも残念な話です。