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神村 岡弁護士ブログ

裁判員判決の破棄

2014.07.27 [ 神村 岡 ]

先日,両親が子供に虐待を加えて死亡させたという傷害致死事件について,裁判員裁判によって出た判決の内容が重すぎるとして,最高裁判所が結論を変更し軽くしたというニュースが流れていました。


これまで,高等裁判所で裁判員裁判の内容が変更されることはありましたが,高等裁判所も支持した裁判員の判決を,最高裁判所で変更するというのは初めてのことです。

今回,最高裁が問題視したのは,裁判員が出した結論が,同種の事件と比べて重すぎるという点です。
同じような傷害致死事件でいうと,懲役10年以下が相場のところ,今回の事件で裁判員が出した結論は懲役15年でした。
かなり重めの結論だったということはわかります。

裁判員には,刑の相場を知る機会があります。
裁判所には過去の裁判についてのデータベースが蓄積されており,それを見ることで,同じような事件であればどの程度の刑の重さになっているのかを知ることが出来るのです。

もちろん,裁判員はその相場に忠実に従わなければならないわけではありません。
しかし,どのような裁判官,裁判員に当たるかという偶然の事情によって刑の重さが大きく左右されるという事態を防ぎ,被告人間の公平を図るため,刑の重さを決めるときは過去の事例の相場から大きく離れてはいけないという原則があります。
特殊な事情があり,この件に関しては特別に重くすべきだといえる場合には,当然重くすることは許されるのですが,そうでない限りは,相場を大きく離れた刑を科すことは公平を害し,適切ではないと判断されうるのです。

もっとも,どのような事件が「同種の事件」に当たるのか,何が特殊事情に当たるのか,その事情をどの程度重視すべきなのかを適切に検討することは,容易なことではありません。
裁判員の仕事は,やはり楽なものではないと思います。

そんな法律もあったのか

2014.07.24 [ 神村 岡 ]

今日,少年数名が決闘罪で書類送検されたというニュースが流れていました。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140724-00000037-mai-soci

決闘罪と聞いて,刑法にそんな罪があったかなと思いましたが,調べてみると,刑法ではなく「決闘罪に関する件」(通称)という法律に定められていました。

我々法律家はいろいろな法律を勉強して法律家になりましたが,使用頻度の低い法律は,全く読んだことも聞いたこともないということが多いです。

この決闘罪が定められた法律は,正にその使用頻度が低い法律に当たりますので,どこかで小耳に挟んだことはあったかもしれませんが,積極的に勉強したり覚えようとしたりしたことはありませんでした。少なくとも,法学部で使った教科書には載っていなかったと思います。

このように,法律家といえども知らない法律が無数にありますので,日々の仕事の中で,これまで接したことのない法律を読むこともあります。

しかし,法律の仕組みや解釈の方法は,どのような法律でも概ね同じです。そのため,法律家は,新しい法律に接するときでも,全くゼロからということではなく,これまでの経験を活かすことができるのです。また,新たなケースに直面した場合などには,このような法律があるかもしれないという勘も働かせることができます。

ですから,法律家が知らない法律が数多くあるからといって,それで直ちに問題が生じるわけではないのです。

その点はご安心下さい。

生活保護と外国人

2014.07.22 [ 神村 岡 ]

今月18日に,外国人の生活保護受給権を否定する最高裁判決が出ました。

これは,外国人の憲法上の生存権(国家から生存を保障される権利)を否定するものです。

現実には,行政の通達によって,日本に居住する外国人は日本人と同様に生活保護を受給できることになっていますが,あくまで行政の判断で保護しているにとどまり,行政の方針が変わって外国人には生活保護を支給しないという判断をしても憲法には違反しないということになります。

憲法の文言上,生存権を保障されるのは日本国民であって,外国人に生活保護受給権が保障されないのは当然と思われるかもしれませんが,それほど単純な話ではありません。

現に,今回の最高裁判決の前に第2審として審理した福岡高等裁判所は,生活保護の受給権は外国人にも保障される旨の判断をしており,文言のみから答えが明確に出るわけではないのです。

今回の判決によって,少なくとも憲法上は外国人に生活保護を支給しないという判断も許容されることとなりましたが,実際に,日本に居住している外国人に対して,外国人だからという理由だけで生活保護の受給を拒否するのはやってはいけないことだと思います。

生活保護については不正受給がクローズアップされていることもあり,生活保護受給者に対する世間の風当たりは強いようですが,生活保護を受給している人の多くは,受給しなければ本当に生きていくことができないのです。

そして,同じような問題を日本に居住する外国人が経験することはあり得るのであって,そのときに,日本人ではないからどうなっても知らないという対応をするというのは人道上許されないと思います。

父子関係とDNA鑑定②

2014.07.18 [ 神村 岡 ]

昨日,最高裁が,民法上の父子関係の推定をDNA鑑定で覆すことはできないという判決を出しました。

4月のブログで書いたように,DNA鑑定の結果を重視して親子関係を覆した高裁判決が取り消されるのではないかと予想されていましたが,やはり取り消されました。

今回裁判所が判断したのは3件で,1件は法律上の父親(夫)が父子関係の取消を求めた訴訟,他の2件は母親が元夫と子との父子関係が存在しないことの確認を求めた訴訟です。

最高裁が民法上の父子関係を覆すことを認めなかった理由は,子の身分についての法的安定性を重視し,いつまでも父子関係が覆る状態が続くのを防ぐという点にあります。

民法772条は,婚姻中に妻が妊娠した子は夫の子と推定すると定めていて,生物的な父親が誰かということにかかわらず,基本的にはまず夫が父親だと推定されます。
夫は,嫡出否認の訴えを起こすことでその推定の効力を争い,自分は父親ではないと主張することはできるのですが,その訴えを起こせるのは出生後1年以内と制限されています。
他方,母親や子も,子と父の親子関係が関係しないことの確認を求める訴訟を起こすことができ,これには特に期間制限はありません。

親子関係の不存在確認が認められ,父子関係の推定が覆るのは,妊娠期間中に妻と夫が完全に別居していて接触がなかったといった事情がある場合です。

民法の父子関係の推定規定は古く,法律が制定された当時はDNA鑑定などは一切想定されていませんでした。
最高裁は,DNA鑑定で推定を覆すことを否定しましたが,5人中2人は反対するなど悩みを見せており,法律を改正する必要性にも触れています。
つまり,今の民法の規定の解釈だけで妥当な解決を図っていくには限界があるので,技術の進歩などを踏まえて法律の方を変えていくべきではないかということです。

今後,父子関係についての民法の規定を改正する動きが出てくるかもしれません。






おもてなし

2014.07.12 [ 神村 岡 ]

先週に引き続き,ローエイシアの国際会議の話です。

今回のローエイシアの会議は札幌で開催されましたので,私を含め札幌弁護士会の国際室のメンバーが準備や運営の一部を担いました。

私が主に関わったのは,2日目にサッポロビール園で開かれたディナーパーティーの準備と運営です。

国際会議のパーティー特有の問題として大きかったのは,ベジタリアンやムスリムが一定数いるためメニューに配慮しなければならないという点でした。

そもそも会場にサッポロビール園を選んだこともあり,基本的にはジンギスカン鍋を囲んで肉や野菜を焼いてもらうことになりますが,ベジタリアンには肉を焼いた鍋で食べてもらうわけにもいかないため,ベジタリアン用の席を用意し,メニューの選択肢を増やしました。
また,ムスリムの中にはラマダン中の人もおり,同じテーブルで酒が提供されているとアウトなので,ラマダン用の席も設けたりしました。

会議への国内外からの参加者は合計で150名ほどに及んだため,120名が入るビール園の個室で収まりきらなくなるというハプニングもありましたが,外国からの参加者には優先的に個室を使ってもらうなどした結果,個室の外は外で自由にやるということで上手く収まりました。

その他,会議が開催されていた会場からディナーパーティー会場への往復のバス・タクシーの手配,会場への参加者の誘導などの細々とした準備も行いました。

国際会議のディナーパーティーは,ホテルでコース料理が出てくるという形式が多く,サッポロビール園でジンギスカンという選択はかなり冒険でしたが,ワイルドな感じのパーティーもまたよしということで概ね満足していただけたようです。

ディナーバーティーの他にも,会議の会場設営,参加者の受付,通訳の手配,同時通訳機の配布,休憩時に提供するお菓子やお茶の用意,オプショナルツアーの企画・運営など様々な仕事があり,国際室のメンバーが手分けして担当しました。

そのような努力の甲斐があったのか,そもそも札幌という都市に好印象を持っていただいたからなのかはわかりませんが,今回の会議の運営は概ね好評で,会議終了後に様々な方からお褒めの言葉をいただきました。

日本流のいわゆる「おもてなし」を多少なりとも実践できたように思います。


集団的自衛権

2014.07.06 [ 神村 岡 ]

先日,閣議決定による憲法9条の解釈変更によって,集団的自衛権が行使可能とされました。

内閣に憲法の解釈権があるわけではないので,閣議決定に何か法的な効力があるわけではありません。

したがって,先日の閣議決定は,政府としての意思表示に過ぎないということになりますが,実際にこれから集団的自衛権を行使する可能性が出てきた以上,当然ですが実際には大きな意味をもちます。

今後,集団的自衛権の行使に関わる法案が成立し,実際に集団的自衛権が行使されると,集団的自衛権の合憲性を争う訴訟が提起され,司法の判断が示されることになるでしょう。

なお,日本において司法の判断の対象になるのは,具体的に国民の憲法上の権利が侵害された場合であって,具体的な国民の権利侵害を離れて,法律が合憲なのかどうかということを直接裁判所で争うことはできないことになっています。

そのため,集団的自衛権の行使についての法律が成立したとしても,実際にその法律に基づいた具体的な動きが出てくる段階にならないと,集団的自衛権の合憲性についての司法の判断が示されることはありません。

個別的自衛権と異なり,集団的自衛権の行使には,どの国への攻撃について自衛権を行使するのか,自衛権行使の対象とする国について,他国に出兵することもあり得る中でどの範囲を「自衛」とするのかなど,いろいろと判断しなければならないことがあり,その分判断者の恣意が働く余地があります。

集団的自衛権の行使の仕方によっては,簡単に戦争の当事国になってしまいかねないと思います。

ローエイシア家族法と子どもの権利に関する国際会議

2014.07.05 [ 神村 岡 ]

7月3日から5日にかけてのスケジュールで,ローエイシアというアジア太平洋地域の法律家の団体が主催する国際会議が札幌で開催されています。

今回の会議のテーマは家族法や子供の権利で,アジアや太平洋地域の各国の法律家が様々な内容の公演やパネルディスカッションを行っています。ハーグ条約(子供が国境を越えて配偶者の一方に連れ去られた場合に元の国に返還するための手続きなどに関する条約)についてのシンポジウムも同時に開催されています。

その道の第一人者の話を聞くことは,やはり大いに刺激になります。

会議は基本的には英語です。
4日と5日は同時通訳がつきますが,3日は完全に英語で,日本の弁護士による解説講義が別途設けられていました。

私は,札幌弁護士会の国際室の室員として,この会議の実行委員会の一員になっていますので,会場の設営や会議への参加者の誘導など,会議の裏方を担っています。

私は英語はまだ片言しか話せませんが,伝えようとすると何とかなるものですね。
少しは役に立てているのではないかと思います。

明日(今日)は最終日です。
ハーグ条約がらみの模擬調停なども行われるようで楽しみです。


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