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神村 岡弁護士ブログ

職務発明

2014.09.06 [ 神村 岡 ]

職務発明とは,会社の従業員が会社の業務として何らかの発明をすることを意味します。

このような場合,今の特許法では,基本的には特許権者はその発明をした従業員で,会社がその発明に対する相当な対価を従業員に支払った場合にのみ会社が特許権を得ることができます。この相当な対価がいくらなのかということに関しては,数多くの裁判例が存在します。

ところで,この職務発明の制度が根本的に変わってしまうかもしれません。


つい先日,政府は,職務発明を無条件で会社のものとする方針を示しました。これまでのルールから180度方針転換することになります。

これは,従業員に低くはない対価を支払わなければいけない現状に異を唱えた経済界の意向をくんだものですが,一方で従業員の発明に対するモチベーションが下がりますし,優秀な研究者が海外に流出してしまう自体にもなり得ます。

結局は国としての競争力の低下につながる可能性が高いように思いますので,私は反対です。



債権法改正

2014.08.29 [ 神村 岡 ]

民法典の中の一つの大きなカテゴリーである債権法の規定が、大きく改正される見通しになりました。法制審議会で改正の最終案について合意がなされたようです。

改正は多岐にわたりますが、今日は法定利率を取り上げたいと思います。

民法では、これまでずっと、法定利率が5%と定められていました。
法定利率が5%ということは、法的に払わなければならないお金を払わなかったりした場合に、支払いが遅れた分、年5%の割合で上乗せして支払う義務が生じるということを意味します。

これは、お金があれば年間5%の割合で運用益を上げることができるという前提で、支払いを受けるのが遅れた分、得られるはずだった運用益を得られなくなったという考え方によるものです。

今、お金を運用して年5%の利益を出すのは非常に困難です。普通に銀行にお金を預けていても、ほとんど利息はつきません。年5%という法定利率は、明治時代に規定されたものがそのまま残っていたのです。

今回の改正で、法定利率は3%に引き下げられることになりました。また、市場金利を参考にして、定期的に小刻みに利率を変えることとされました。これまで明治時代から変わらなかったものが、大きく変わったなあと思います。

弁護士費用は請求できるか

2014.08.23 [ 神村 岡 ]

法律相談を受けていると,弁護士費用は紛争の相手に請求できるのかという質問をよく受けます。

こちらに何も落ち度がなく,専ら相手が紛争の原因になったという場合,その紛争のために依頼した弁護士の費用は相手に請求できてもよさそうな気がします。

しかし,基本的には,弁護士費用を相手に請求することはできず,それぞれが依頼した弁護士の費用はそれぞれが負担するというのが裁判実務です。

例外は,不法行為に基づく損害賠償請求をする場合です。不法行為は,違法な行為で被害者に損害を負わせた場合に成立します。この場合には,概ね請求金額の10%を弁護士費用として相手に請求することができます。

なぜ不法行為が成立するときにだけ,弁護士費用を相手に請求できるのでしょうか。
それは,不法行為以外の場合は,相手に弁護士費用を請求できる法的根拠がないからということだと思います。

他人にお金を請求できる法的根拠は,大まかに言って,契約の締結,不法行為の成立,親族間の扶養義務等法律で定められている,不当利得(相手が不当な利益を得て,その分こちらが損をしている場合)に分けられます。
逆に言うと,これらのいずれにも該当しない場合はお金を請求できる理由はないということになります。

そして,単に相手が契約上払うべきお金を払わないというような場合には不法行為は成立せず,他に相手に弁護士費用を請求するための法的根拠になるようなものはありませんので,相手には請求できないということになります。

他方,不法行為に基づく損害賠償請求をする場合には,不法行為が成立すること自体が相手に弁護士費用を請求できる根拠となるのです。

このような結論で果たしてよいのだろうかという疑問もありますが,一般的に弁護士費用を請求できるようにするためには,そのように法律で定める必要があると思います。

盆踊り

2014.08.15 [ 神村 岡 ]

歌と踊りが好きな息子のために,お盆休みの間に,地域の盆踊りに2回ほど顔を出しました。

それぞれ違う場所で開催されたもので,規模は違いましたが,歌と踊り,地域の町内会が主催して地域の老若男女が集まるという点,最後に参加品がもらえるという点で共通していました。

盆踊りに顔を出したのは,大通公園の盆踊りを見学したのを除くと,ほんの小さな子供の頃のことで,ほとんど記憶もありません。
小学生くらいまでは顔を出して,その後は親になるまで行かなかったという方は結構多いのではないでしょうか。

私も子供と一緒に見よう見まねで踊りました。
全く見ず知らずの人と一緒に何かをするというのが,あまり機会はないので新鮮な感覚でした。

歌と,輪になって踊る人々,夜空に浮かぶ提灯が醸し出す独特の雰囲気は,盆踊りならではだと思います。

また,盆踊りに限られるものではありませんが,地域の老若男女が参加する盆踊りというものは,地域の人々の交流の機会を提供してくれます。
特に,子供が大勢参加しますので,大人が地域の子供を一緒になって見守っていくという雰囲気が生まれるような気がしました。

良い伝統行事だなとしみじみ感じました。

「すき家」の第三者委員会報告書を読んで

2014.08.09 [ 神村 岡 ]

牛丼チェーンの「すき家」で違法な労働環境が問題になっていた件で,先日,その問題の調査をしていた第三者委員会の報告書が発表されました。


その内容を見ると,「すき家」において,サービス残業や労働基準法上の制限を大幅に超過した残業,様々な面で問題のある深夜の一人勤務など,それまでの違法な労働環境が浮き彫りになっています。

また,そのような状態に陥ってしまった原因についても言及されています。
現経営陣には,自分たちも同様に過酷な労働に耐えて「すき家」をここまで大きくしたという自負があり,それを従業員に求めることも当然許されると考えていたようです。

当然ながら,自分たちもやったことだからと違法な労働環境を押しつけて良いはずがなく,正当化は出来ないと思います。端的に,経営陣には問題意識,危機感が欠如していたといえます。

しかし,「すき家」が第三者委員会を設置して外部の目で徹底的に労働環境を調査してもらい,違法な労働実態を改善していく覚悟を示したこと自体は,評価されるべきことだろうと思います。
第三者委員会の調査を受け,その報告書を公にしたことで,「すき家」は労働環境に関する膿を全て出し切り,正常な経営に向けて舵をきったといえるでしょう。

第三者委員会が行った従業員に対するアンケートでは,会社に対する厳しい声だけではなく,会社を思う声も数多くよせられたということです。
このような従業員こそが会社の財産であるという報告書の一節には,正にそのとおりだなと思いました。

氷泥棒

2014.08.02 [ 神村 岡 ]

先日,スーパーの保冷用の氷を買い物もしていないのに大量に持ち去ろうとした人が,窃盗罪で逮捕されたというニュースが流れていました。

ただで使えるものとは言っても,スーパーに置いてある氷は買い物客が買った食品を保冷するために提供されているものであって,何も買っていない人が持ち去ることは予定されていません。

そのため,買い物もしていないのに氷を持ち去るのは窃盗罪に当たります。窃盗罪に当たるかどうかはともかく,まずいことだというのは常識的に考えればなんとなくわかりますよね。

もっとも,持ち去った量が少量だったり,店長から制止されてやめていれば,逮捕までされることはなかったと思います。やりすぎだったということですね。

逮捕後,その男が「窃盗だとは思っていない」と弁解していたそうですが,今頃はさすがに後悔しているのではないでしょうか。

どうせ無料だから問題ないだろうということで同じようなことをしている人は,程度の差こそあれ,全国に数多くいると思います。

今回の逮捕は,そういう意味でかなりインパクトのあるものだったのではないでしょうか。

裁判員判決の破棄

2014.07.27 [ 神村 岡 ]

先日,両親が子供に虐待を加えて死亡させたという傷害致死事件について,裁判員裁判によって出た判決の内容が重すぎるとして,最高裁判所が結論を変更し軽くしたというニュースが流れていました。


これまで,高等裁判所で裁判員裁判の内容が変更されることはありましたが,高等裁判所も支持した裁判員の判決を,最高裁判所で変更するというのは初めてのことです。

今回,最高裁が問題視したのは,裁判員が出した結論が,同種の事件と比べて重すぎるという点です。
同じような傷害致死事件でいうと,懲役10年以下が相場のところ,今回の事件で裁判員が出した結論は懲役15年でした。
かなり重めの結論だったということはわかります。

裁判員には,刑の相場を知る機会があります。
裁判所には過去の裁判についてのデータベースが蓄積されており,それを見ることで,同じような事件であればどの程度の刑の重さになっているのかを知ることが出来るのです。

もちろん,裁判員はその相場に忠実に従わなければならないわけではありません。
しかし,どのような裁判官,裁判員に当たるかという偶然の事情によって刑の重さが大きく左右されるという事態を防ぎ,被告人間の公平を図るため,刑の重さを決めるときは過去の事例の相場から大きく離れてはいけないという原則があります。
特殊な事情があり,この件に関しては特別に重くすべきだといえる場合には,当然重くすることは許されるのですが,そうでない限りは,相場を大きく離れた刑を科すことは公平を害し,適切ではないと判断されうるのです。

もっとも,どのような事件が「同種の事件」に当たるのか,何が特殊事情に当たるのか,その事情をどの程度重視すべきなのかを適切に検討することは,容易なことではありません。
裁判員の仕事は,やはり楽なものではないと思います。

そんな法律もあったのか

2014.07.24 [ 神村 岡 ]

今日,少年数名が決闘罪で書類送検されたというニュースが流れていました。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140724-00000037-mai-soci

決闘罪と聞いて,刑法にそんな罪があったかなと思いましたが,調べてみると,刑法ではなく「決闘罪に関する件」(通称)という法律に定められていました。

我々法律家はいろいろな法律を勉強して法律家になりましたが,使用頻度の低い法律は,全く読んだことも聞いたこともないということが多いです。

この決闘罪が定められた法律は,正にその使用頻度が低い法律に当たりますので,どこかで小耳に挟んだことはあったかもしれませんが,積極的に勉強したり覚えようとしたりしたことはありませんでした。少なくとも,法学部で使った教科書には載っていなかったと思います。

このように,法律家といえども知らない法律が無数にありますので,日々の仕事の中で,これまで接したことのない法律を読むこともあります。

しかし,法律の仕組みや解釈の方法は,どのような法律でも概ね同じです。そのため,法律家は,新しい法律に接するときでも,全くゼロからということではなく,これまでの経験を活かすことができるのです。また,新たなケースに直面した場合などには,このような法律があるかもしれないという勘も働かせることができます。

ですから,法律家が知らない法律が数多くあるからといって,それで直ちに問題が生じるわけではないのです。

その点はご安心下さい。

生活保護と外国人

2014.07.22 [ 神村 岡 ]

今月18日に,外国人の生活保護受給権を否定する最高裁判決が出ました。

これは,外国人の憲法上の生存権(国家から生存を保障される権利)を否定するものです。

現実には,行政の通達によって,日本に居住する外国人は日本人と同様に生活保護を受給できることになっていますが,あくまで行政の判断で保護しているにとどまり,行政の方針が変わって外国人には生活保護を支給しないという判断をしても憲法には違反しないということになります。

憲法の文言上,生存権を保障されるのは日本国民であって,外国人に生活保護受給権が保障されないのは当然と思われるかもしれませんが,それほど単純な話ではありません。

現に,今回の最高裁判決の前に第2審として審理した福岡高等裁判所は,生活保護の受給権は外国人にも保障される旨の判断をしており,文言のみから答えが明確に出るわけではないのです。

今回の判決によって,少なくとも憲法上は外国人に生活保護を支給しないという判断も許容されることとなりましたが,実際に,日本に居住している外国人に対して,外国人だからという理由だけで生活保護の受給を拒否するのはやってはいけないことだと思います。

生活保護については不正受給がクローズアップされていることもあり,生活保護受給者に対する世間の風当たりは強いようですが,生活保護を受給している人の多くは,受給しなければ本当に生きていくことができないのです。

そして,同じような問題を日本に居住する外国人が経験することはあり得るのであって,そのときに,日本人ではないからどうなっても知らないという対応をするというのは人道上許されないと思います。

父子関係とDNA鑑定②

2014.07.18 [ 神村 岡 ]

昨日,最高裁が,民法上の父子関係の推定をDNA鑑定で覆すことはできないという判決を出しました。

4月のブログで書いたように,DNA鑑定の結果を重視して親子関係を覆した高裁判決が取り消されるのではないかと予想されていましたが,やはり取り消されました。

今回裁判所が判断したのは3件で,1件は法律上の父親(夫)が父子関係の取消を求めた訴訟,他の2件は母親が元夫と子との父子関係が存在しないことの確認を求めた訴訟です。

最高裁が民法上の父子関係を覆すことを認めなかった理由は,子の身分についての法的安定性を重視し,いつまでも父子関係が覆る状態が続くのを防ぐという点にあります。

民法772条は,婚姻中に妻が妊娠した子は夫の子と推定すると定めていて,生物的な父親が誰かということにかかわらず,基本的にはまず夫が父親だと推定されます。
夫は,嫡出否認の訴えを起こすことでその推定の効力を争い,自分は父親ではないと主張することはできるのですが,その訴えを起こせるのは出生後1年以内と制限されています。
他方,母親や子も,子と父の親子関係が関係しないことの確認を求める訴訟を起こすことができ,これには特に期間制限はありません。

親子関係の不存在確認が認められ,父子関係の推定が覆るのは,妊娠期間中に妻と夫が完全に別居していて接触がなかったといった事情がある場合です。

民法の父子関係の推定規定は古く,法律が制定された当時はDNA鑑定などは一切想定されていませんでした。
最高裁は,DNA鑑定で推定を覆すことを否定しましたが,5人中2人は反対するなど悩みを見せており,法律を改正する必要性にも触れています。
つまり,今の民法の規定の解釈だけで妥当な解決を図っていくには限界があるので,技術の進歩などを踏まえて法律の方を変えていくべきではないかということです。

今後,父子関係についての民法の規定を改正する動きが出てくるかもしれません。






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